2010年代の代表的アニソン作家3人
あくまで個人の意見であることを断っておくが、まず結論から書こう。
田中秀和、堀江晶太、田淵智也。以上3人だ。
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今から遡ること数年、00年代(2000~2009年)のアニソンを総括する番組がNHK BS2で放送された。その番組のコーナー「00年代アニソン酒話」では神前暁、上松範康、田代智一という時代を彩った作曲家3人による鼎談がなされた。
神前暁といえば、音楽クリエイター集団MONACAに所属し、挙げきれないほどの名曲を作った、言わずと知れた作曲家である。
あえて代表作をあげるとすれば、
・『らき☆すた』主題歌「もってけ!セーラーふく」
・同挿入歌「God knows...」 ・『かんなぎ』劇伴
・同主題歌「motto☆派手にね!」 ・『〈物語〉シリーズ』劇伴
・同各主題歌 などなど
こうした“神前の楽曲”を、略して“神曲”と呼んでも一切過言ではない。
上松範康は、音楽クリエイター集団Elements Garden代表にして、数々の有名楽曲を手がけたスーパーメロディメーカーである。
代表作としては
・『魔法少女リリカルなのはA's』OP「ETERNAL BLAZE」
水樹奈々を2009年末紅白歌合戦の舞台に引き上げた立役者であり、2010年代には原案を務める『うたの☆プリンスさまっ♪』や『戦姫絶唱シンフォギア』を大きく花開かせた。
上松の上(あげ)は時代を意味する英語Ageで間違いない。"Age"matsu's "Age"だ。
田代智一は現在音楽クリエイター集団Q-MHzのメンバーとしても活躍している。
そんな田代の代表作といえば
・『ながされて藍蘭島』OP「Days」
アニソンにパラダイムシフトを起こした
・『涼宮ハルヒの憂鬱』ED「ハレ晴レユカイ」(作曲)
他にも
・同キャラクターソング「雪、無音、窓辺にて。」の作曲も広く知られていよう(なお編曲は上松範康)。
2010年代にはこんな楽曲もつくっている。
・『弱虫ペダル』挿入歌「恋のヒメヒメぺったんこ」
田代はさながらアニソン史に燦然と輝く城郭、“た城”と呼んでもいいだろう。
人の名前で遊ぶのはこの辺にして、冒頭に触れたアニソン酒話の放映から8年が経過した。2018年、まもなく2010年代も終わろうとしている。
00年代を「ゼロ年代」と言うように、2010年代は「テン年代」という言い方があるようだが、ブログでは2010年代という呼称を用いている(なお平成という元号が終わりそうなので、平成のアニソン総括もすべきなのであろうが扱わないし、それは筆者力不足のため扱えない)。
前置きが長くなった。だがここからも長い。
ゼロ年代を代表するアニソン作曲家が神前、上松、田代の3人だとして、2010年代を代表するアニソン作曲家3人を挙げるとしたら誰が妥当か、それを考えるのが本記事の目的である。
2010年代のヒット曲をつくった作曲家といえば、
渡辺翔
・『魔法少女まどか☆マギカ』OP「コネクト」
前山田健一(ヒャダイン)
・『日常』OP「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイーC」
ZAQ
・『中二病でも恋がしたい!』OP「Sparkling Daydream」
大石昌良(オーイシマサヨシ)
・『月刊少女野崎くん』OP「君じゃなきゃダメみたい」
Tom-H@ck、黒須克彦、宮崎誠、俊龍、高田暁、山口朗彦、kz、ヒゲドライバー、佐藤純一、滝澤俊輔、睦月周平、中山真斗、加藤裕介、やしきん、増谷賢、北川勝利、清竜人、本多友紀、EFFY、園田健太郎、y0c1eなども挙げたい(個人的趣味を中心に挙げてみたが、ホントに言及しきれない)。
いや2010年代もなお、神前、上松、田代の活躍は見逃せないから、ゼロ年代からの2冠でも良いかもしれない。はたまた「紅蓮の弓矢」のrevoや「前前前世」の野田洋次郎も含むかもしれない。
しかし!ただ!敢えて3人!
そう、3人だけを挙げるならば!筆者は以下の3人を挙げたい。
田中秀和、堀江晶太、田淵智也である。
以下、彼らの推しポイントを書く。
田中秀和はMONACA所属で、神前の弟子にあたる作曲家である。
彼の楽曲は
・『這い寄れ!ニャル子さん』OP「太陽曰く燃えよカオス」
その作品ファンでなくとも一度ならず耳にしたことがあるであろう名前がズラリと並ぶ。
『Wake Up, Girls!』では、
・挿入歌「極上スマイル」
さらに、
・『アイドルマスター シンデレラガールズ』OP『Star!!』 ・『灼熱の卓球娘』OP「灼熱スイッチ」
などでは、楽曲のメロディや独特のコード進行が後続の作曲家に与えている影響は計り知れない。
例えば最近の筆者のお気に入りであるバーチャルライバー(VTuber)月ノ美兎のテーマソングともいえる「Moon!!」(作詞・作編曲:iru)は構成などから「Star!!」の影響が強く覗える。
また、同じくVTuberの もこ田めめめイメージソング「めめめドリーミング」(作編曲:Aire)もコード進行などから田中秀和成分を感じとれる。
これはVTuberが流行れば流行るほど、MONACA 田中秀和の功績も高まることを意味するのではないだろうか……?などと思いながら聴くこともしばしばである。
田中秀和、彼は有無を言わせず2010年代アニソン作曲家に相応しい人物であろう。ゼロ年代を代表する作曲家神前暁のもとに、田中秀和の活躍がある。このことは肇国以来の寿ぐべき歴史的大事件であろう。
また彼らの所属するMONACAは、大ヒットゲーム『ニーア』シリーズの音楽などを手がけた代表岡部啓一、劇場版アイドルマスター、〈物語〉シリーズほかで劇伴を担当する高田龍一、『アイカツ!』シリーズでファンから絶大の支持を集める楽曲の数々を生んだ石濱翔、忍者帆足圭吾、奇想天外で時にトリッキーかつアグレッシブな楽曲を作る広川恵一など逸材揃いであり、今後もアニメ音楽業界を率いていくに違いない。
続いては堀江晶太である。
ボカロP、kemuとして
・「六兆年と一夜物語」
PENGUIN RESEARCHのメンバーとして
・『デュラララ!!×2 結』OP「ジョーカーに宜しく」
彼はアーティスト提供曲もキャッチーな楽曲揃いであり、
・『無彩限のファントムワールド』ED「純真Always」(田所あずさ)
・『魔法科高校の劣等生』OP「Rising Hope」(LiSA、作詞・作曲は田淵智也)もまた2010年代を代表するアニソンといえるだろう。
一聴でわかるほどの記名性の高さは堀江節とでも呼ぶべきものであり、激烈なパワーとスピードが炸裂したかと思えば、心の琴線に触れる優しいピアノが染み渡る達成感すら覚えるメロディセンスが発揮されることもある。
本論とは少し逸れるかもしれないが、美少女ゲーム『ちいさな彼女の小夜曲』OP「マリンブルーに沿って」など流れるような爽快感も魅力であり、同曲やシリーズの楽曲の根強いファンも多い。
唯一無二、堀江楽曲の快感はライブで最も映えるものであり、こうした楽曲の方向性は今後も継承されていくものと信じる。
一般の人でもその名をご存知であろう田淵智也はUNISON SQUARE GARDENのメンバーであり、
・『TIGER & BUNNY』OP「オリオンをなぞる」
彼によるアーティスト提供楽曲は、
・『となりの怪物くん』OP「Q&Aリサイタル!」(戸松遥)
なおゼロ年代代表作曲家の田代智一とは「田○智○」つながりで、「田っ智レディオ」というネットラジオ番組を制作しているほか、『夜桜四重奏』つながりで畑亜貴、黒須克彦とともにQ-MHzを結成、アーティストへの楽曲提供、プロデュースも行っている。いわゆるアニソン的枠組みでは括れない活躍のおかげで、却ってアニソンのファン層が拡大させた功績はあまりにも大きい。
田中秀和、堀江晶太、田淵智也。この3人を2010年代を代表する作曲家としたのは、上記の優れた楽曲群の評価だけに由来するわけではない。近年のアニソンに彼らの楽曲の影響が多く感じられるからでもあり、2020年代に有名になるアニソン作家は彼らをリスペクトして、作家の道を志す者が少なからずいると信じるからである。
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以上はひたすら印象論である。
ただし、筆者と同じようなことを考えたことのある者のみ共感しうる内容であろう。大いに賛成する者があれば追随して作曲家を讃える記事を書いてほしい。
しかし一方で読者は時に反発を覚えるであろう。それも筆者の望むところである。この記事によって、2010年代のアニソンを総括し、また個々人の基準によって代表的作家を3人選出する。そうした議論の機運が盛り上がれば、嬉しく思う。
ところで田中、堀江、田淵の鼎談が見たい。聞きたい。誰か頼む!強く頼む!!(他力本願)